一旅43。京の庭。三つ。

どの街もさして違いがない。だが、京だけは別格である。

京には寺が3,049、神社も1,757ある。それに多くの庵・堂・閣・院もある。しかも、そのいずれもが、水、石、植栽、景物を配した庭を持つ。

車での気ままな西日本への旅の折など、京に立ち寄ることが多い。その京では、馴染みの店での一杯まで決まりの庭で過ごすことにしている。

先ず、宿からさほど遠くないこともあり平安神宮の神苑を覗く。
垂れ桜が見事だが、この季節では、中神苑の小池に龍の背のように置かれた石(臥龍橋)を覚束ない足で渡るなど、広大な庭の散策が目当てとなる。

そうした後は、岡崎の高級住宅街に紛れ込む。この地は平安時代の貴族の別荘地、今は名の知れた財界人の別邸が立ち並ぶ静かな住宅街。

その住宅沿いの清流に導かれ南禅寺に向かい、その大門を潜った右側に目指す天授庵がある。
近年とみに白髪が増えた料金所の女性に会釈して、門脇の木戸をくぐり正方形と菱形を組み合わせたモダンな石畳を進む。

その先がお目当ての淵黙庭。

の縁先からは、白砂の中にさりげなく置か一つの石と枝ぶりの良い一本の松、その奥の土塀沿いの枝ぶりの良い木々が目に入ってくる。このお気に入りの庭でぼんやりと小一時間は過ごす。

そうした後は詩仙堂で陽が落ちるまでの時間を過ごす。

宮本武蔵が吉岡道場一門たちとの決闘にのぞむ前、口を漱いだ八大神社の御手洗から、坂を少し登った先に詩仙堂の簡素な作りの門が目に入ってくる。

決まって、詩仙の間(読書室)の縁先に座り、一本の古竹を渡した筧から落ちる鹿おどしの心地良い響きを楽しむ。嘗ては、2階の小部屋を独り占めし昼寝すらも楽しめたのだが、今は老朽化が進み、その階段は閉されている。

これら三庭は、池が中心の水景の池泉庭園、砂や石で水や山で水を一切使わない枯山水、灯篭や蹲踞と飛び石が配置され露地と、それぞれの違う魅力で満ちたお線香より蚊取りが似合う、私のお気に入りの京の庭である。

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