閉店である。
先日、渋谷の三魚洞に寄った。
その折、“玉久が閉店した”と女将から聞かされ、慌てて訪れて見たところ、確かに閉店の張り紙が出されていた。

また、お馴染みの店が消えたようだ。
この玉久、若い私には敷居の高い店であったが、懐具合を気にしながらも通っていた。
程よく混んでいた、この店。
開店前に押しかけ、いかにも魚好きの中年の連れや、監督に連れられた劇団の若者の一団と一緒になり、皆で入り口に置かれた縁台で腰掛けて店が開くのを待つ。

こうして案内される先が、ビール箱の上に板を載せただけのテーブル、その上には裸電球がぶら下がっている。
メニューは、壁に貼られた値段の書かれていない短冊型のもので、生きのいい上質な刺身、焼き魚や煮魚。
売り切れた短冊は容赦なく剥がされる。
話が弾んでいると、絶妙なタイミングで土瓶蒸しを薦められる。どうやら、長居をしたようである。
席を次の客に譲るタイミングの合図、そんな約束があった。

それに忠勇しかない上に酒は一合までと長居を許してくれない。
その役割を担っていた、キビキビ働くヤンチャな給仕、郷さんの顔が懐かしく目に浮かぶ。
この玉久、渋谷交差点の一等地にあった店。若者の街、渋谷のシンボルビル109ビルが建てられた折も、その隣で木造一軒屋の昔の姿で営業を続けていた。

久しぶりに訪れると立派な自社ビルになっており、その最上階の8階と9階の2フロアを使って営業していた。
既に、あの郷さんは見当たらず、オーナー兄弟の一人も姿を消し、無口な笑顔を絶やさないお兄さんだけが健在であった。
昔のことだが、余りにも立派な焼き“かま”料理に驚き、話しかけると、“高級料亭へ卸している仲買人から、特別に分けて貰っている”と、珍しく話が弾んだ事があった。
その弾みで一緒に築地の河岸に、早朝行こうと話が進んだ。
残念ながら、彼の勧めた日時のタイミングが合わずに、今にしては、もったいないことをしたと、今、懐かしく思い出す。
若者の街、渋谷にあって、数少ない我らも通える魚料理屋が、また一軒消えた。
この記事へのコメント
2025/03/04 14:22
玉久 懐かしい 今知りました 魚を食べたくなったらここでした
地下鉄の階段を上がってくるとこちの匂いが漂ってました
こちぽん こちかま 車エビ 土瓶 何かお通しがあったなぁ
うまかった 親父を連れってたこともあったな
令和2年12月19日閉店 何が有ったのかな
2025/03/10 09:38
こうした良い馴染みの店が消える。
この歳になると、今更、新しい店に行くのは、旅先の知らぬ地だけになります。
残念な店です。
2025/09/22 08:38
残念な店が閉店、こんなことが旅先でもよく出逢うようになりました。
長生きしたようです。
2025/09/22 08:43
私の住まいは、今、白金です。
近辺で良いお店をこうした良い馴染みの店が消える。
この歳になると、今更、新しい店に行くのは、旅先の知らぬ地だけになります。
残念な店です。
2025/09/20 13:55
こんにちは。
たまたまに「玉久」の昔の写真を目にして、
インスタにこんなことを書き留めました。
あらためて検索しましたら、こちらの記事を発見。嬉しくなって、コメントを書き込ませて頂きました。いいお店でした、ほんとうに。
渋谷「玉久」。
偶然に懐かしきトタン屋根の画像が目に入って来て。
渋谷109には今も凹みが。
「玉久」が頑なに地上げを断ったから。
今は玉久ビルになってしまいましたが。
昔ながらの三和土、いや土の上に、パイプのテーブルに丸椅子。そこで新鮮で旬のお魚を食べさせてくれて。
コチの薄造りをポン酢で、鰹、白子、空豆を皮ごと丸焼き、、、、、。そして、壁に木札のメニュー。すべて時価。
まさに大人の居酒屋。
30数年前に、常連だった先輩と一緒に幾回も。
こんなことも。
おそらく20代の男女、が隣のテーブルに。
少しく飲んで食べた後にお会計。
こんなバラック小屋のお店ですが、価格は大人価格。
なので若い2人には持ち合わせ足りなく。
男性はオロオロ。
すると女性が「あんた、ここで待ってなさい、お金取ってくるから」お店の人に「すいません、ちょっとお待ち下さいますか。人質置いていきますので」。
さっと古い硝子戸を開けて走って行きました。
カッコよかったなあ。
他のお客さんも、お店の人も、お見事!みたいな空気に。
留守番の彼にビールをご馳走したような、、、、。
また、こんなことも。
南会津でご縁ある方と世間話。
話していたら、、、、「玉久」さんのご家族であることが。
お店も手伝っていて、常連だった先輩のことも、
よーくご存知で。
お店の思い出って、いいものですね
残念ながら、ビルに建替え後も営業していましたが、今は閉店されて。
#玉久#渋谷玉久#玉久ビル#居酒屋#三和土のある居酒屋#バラック居酒屋#昔の渋谷#大人の居酒屋#今は無き居酒屋#渋谷
2025/09/22 08:35
この歳になると、旅先でも楽しみしていた店がお店が姿を消していることが、多くなり出しました。
新旧入り変わりが激しくなったようですね。
車旅と夜の一杯が楽しみ引退した身、良いお店をお教えください。
2025/09/22 14:30
こちらこそ、お返事頂きましてありがとうございます。
齢を重ねるごとに、馴染みのお店に通うのが、いいものですよね。
旅はいつも、その土地ならではの美味しいものをの目的旅として参りました。通常なら定年となる齢となりましたが、まあ、生涯現役、自分で定年を決める仕事にで。なかなかゆっくりとの旅も出来ませぬが。それでも、今でも、10年数年来通い続けているお気に入りは。和食ですと。逗子「風ら坊」、ここまでの居酒屋は稀有かと。毎年必ず一回の旅では、青森「津軽割烹未来」、青森津軽の食材を郷土料理を。京丹後「魚菜料理 縄屋」、薪で料理してくれます。オンリーワンのお店です。車旅と一杯のご参考になりましたら、幸いです。
2025/09/23 08:44
旅先の一杯、格別ですね。
この夏、東北に車を飛ばすつもりですので、お教え頂い青森「津軽割烹未来立ち寄ってみます。
ありがとうございます。
2025/09/23 14:31
青森旅楽しんで来てくださいませ。津軽弁を聞くのも。未来さん、「奄美のパイナップルの人から勧められた」とでも大将に伝えてみてください。
2025/09/24 08:15
はい。そうさせて頂きます。
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